前回の続きで、いよいよ自分の発表の番です。
名前をなぜか中国語で呼ばれ、部屋の中に入ると3人の審査官が並んで、改めて(?)私の論文を読んでいました。
ちなみに改めて強調しておくと、私が所属していたのはInternational MBAと呼ばれ、すべての授業は英語で行われました。
従い論文も全て英語で書いたのですが、論文のAbstract (概要)だけは英語と中国語の併記とするよう全ての学生に要求されていたのです。
正直そんな中国語力があるんだったら最初から全部中国語で書くわ、と言いたいところですが、長くはない文章なのでクラスメイトに依頼し、妻に内容をチェックしてもらうという方法で対応しました。これは、中国人以外のほぼ全ての学生が似たような対応をしたので、中国人学生にとっては負担でしかありません。だったらMBAオフィスが訳せばいいのに、と思うところですが、そんな力は当然ながらありませんので。
論文を読んでいた3人の教官のうちのひとりが「请坐(座ってください)」と言いました。
この程度のあいさつは少し中国で生活していれば誰でもわかるので特に不思議に思わず座ると、その教官が「中国語で発表するの?」と引き続き中国語で聞いてくるのです。「中国語はそんなにしゃべれないので英語です。だってIMBAですから」と返すと驚きの返事が返ってきました。
「英語、あまりわからないんだよ」と。
。。。
この人はなぜIMBAの学生の審査をしているのか。この人に内容を理解する力はあるのか?なぜこの人に審査されなければいけないんだ?
様々な考えが頭をめぐりましたが、それも中国です。そのことを2年間身をもって体験してきて、最後の最後にもまさに見せつけられました。
そんなことを考えているうちに他の2人の教官から「気にせず英語でやって」と言われ、さっさと論文の要旨の説明です。
さすがに2年間英語での議論やプレゼンを繰り返していると、英語で小難しいことを話すことにも抵抗がなくなり、比較的スムーズに自分の言いたいことを伝えることができた、と思っていました。
また、3人のうちの1人は私の言っていることはわからないので、まあ何とかなるだろうと思いながらQ&Aセッションに移ると、残りの2人からかなりアグレッシブかつ本質を突く質問がいくつも出てきました。
そのいずれもが、私が論文を書きながら正直弱い部分であると感じているところであり、さすがに審査する側の人間だけに短い時間で本質を見極めることには長けているようです。
かなり緩んでいた気を改めて引き締め、うそをつかずにかつ正面からの回答を避ける形で質問をしのいでいると時間がやってきて終了です。
この修士論文発表は、大体4-5人を1バッチとして連続して発表して、各バッチごとに審査結果の発表を行うという形となっているので、いったん部屋の外で待機するため、一礼をして外にでました。
10年前の修士論文・発表よりかはやり切った感はあったので、終わってからはしばらくまた、待っている時間を利用してクラスメイトと昼ご飯をどこに食べに行くか、なんて話をしていました。
その頃ちょうど中国の株式市場が変調をきたし始めたころで、友人の1人がかなりやられてしまった話などで盛り上がっているうちに私のバッチ全員の発表が終了しました。
とはいうものの、「まさか落ちるわけがない」と誰もが思っており、緊迫した雰囲気とは全く無縁の空気の中で結果を待っていました。
そして7-8分が過ぎたころ、バッチの全員が部屋の中に入るよう指示されたので、発表した部屋と同じ部屋に入ると、先ほどの3名の審査官以外にも多くのスタッフが中にいて、みんな神妙な顔つきをしておりました。
発表者はそれらスタッフの前に横一列に並べられました。
ここでもセレモニー重視の中国らしさ満載の発表形式です。
「まさか落ちるわけがない」と思っていたので気づきませんでしたが、バッチ全員集められてその合否が発表されるということは、誰かの不合格通知にも向き合わなければならないということです。
今更ながらこの空間の特殊性に気づき、少々空気が重たくなるのを感じましたが、、、
「全員通過!」とここでもいかにも中国人がセレモニーの時に使う堅めの言葉を使って発表してくれました。
当たり前だと思っていても、とりあえずこれで卒業できると思うと嬉しいものです。
ですが、あとから聞いたところによると何人かの学生、特に中国人の学生については通してもらえずに改めて論文を書き直さなければならなくなる人が少なからずいたそうです。
中国語クラスはかなり適当な論文が多かったようで、そこそこの人数がやり直しとさせられた模様です。
安心するとともに長かったようで本当にあっという間だったMBA生活も終盤を迎え、いよいよみんなと別れの時が近づくことをリアルに感じた瞬間でした。
果たしてその後、論文書き直しとなった人たちは一体どうなったのでしょうか。
以上が卒業論文にまつわるエピソードとなります。
改めて振り返ってみると、たった半日の出来事だったのですが、ここに私が中国で経験したことのかなりのことが凝縮されていると思います。
時間の適当さ、論文審査員の適当さ、セレモニー重視などなど。
特に写真などないのですが、今でもこの日のことは記憶に映像として残っているくらい、いろいろありすぎた日でした。
以上を卒業論文の回とするとともにMBA関連の話を終了しますが、MBAブログとこれから書き留めていく話のつなぎを、私がMBAについて思うことなどを絡めてお話していきます。
中国だけでなく、今後MBA留学を志す若い方の参考になればと思います。