中国MBAに挑戦した夫婦のその後(仮)

北京大学MBAを修了したサラリーマンのその後や関心を持つようになった中国ビジネスに関する情報について、気ままに記録していきます。

モバイク日本上陸

だいぶ間隔が空きましたが、今回は前回の続きです。 

 

前回の記事で中国のシェアサイクルビジネスについて紹介しましたが、6月にそのうちの1社のモバイク(Mobike)が日本への進出を発表しました。拠点を福岡に構える模様です。 

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www.businessinsider.jp

6/17の日経新聞の記事では、現時点では料金は30分100円以下を考えているようで、ほぼほぼ北京などの中国の都市と同等の価格設定となるようです。 

 

それにしても、中国にサービスをローンチしてから1年程度で稼働している自転車台数を中国・シンガポール合計で450万台にまで持ってくることができるスピード感は驚くより他ありません。 

 

日本でもNTTドコモが東京(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、大田区江東区臨海部)神奈川(横浜市西区、中区が中心の模様)、仙台市広島市でサービスを提供しています。 

東京・自転車シェアリング広域実験(千代田区・中央区・港区・新宿区・文京区・江東区)

 

両方の情報を見て、ざっくりですが比較をしてみました。 

 

モバイク(中国) 

ドコモ・バイクシェア(日本) 

自転車の作り 

頑強(盗難を想定済) 

日本仕様 

電動アシスト 

無し(?) 

有り 

GPS 

有り 

有り 

決済 

スマートフォン(Wechat) 

クレジットカート/ICカード 

 

自転車の作りそのものは、自転車の盗難が多い中国をメイン市場としているモバイクの自転車はかなり頑強に作られています。一方ドコモの自転車は一般的な自転車に機能を付加しているように見えます。 

また、日本では普及している電動アシストをドコモは標準で積んでいますが、モバイクが日本市場において電動アシスト付きを導入するかが注目です。 

私の予想ですが、モバイクのコンセプトに鑑みおそらく電動アシストはつけずに自転車そのものの乗り心地をよくする方向に行くのではないかと思っています。 

決済はドコモではクレジットカードおよびICカードである一方、モバイクはスマートフォンとの記載がありますが、こちらはおそらくWeChat決済でしょう。 

留学中のブログにも書きましたが、中国においてはWeChatにおける決済はその当時からすでに標準化されておりかなり便利に使えます。一方、日本のデファクトとなっているLINEにもLINE Payの機能はありますが、セキュリティに不安を感じる方が多いせいか、あまり普及していないように思います。日本でも使えるようになると便利だと思うのですが...。 

 

ドコモが行政側に提供するサービスの全容がはっきりとは見えていませんが、日本の市場を知り尽くしかつ行政との折衝も巧みに行うことで着実に採用を進めているものと思います。 

一方で、設備や実際の運用(自転車の偏在の解消、盗難対策)などは自治体に依存しているかと思いますので、モバイクがドコモなどの既存プレーヤーと戦うためには、このオペレーションの部分でどれだけ魅力的な提案ができるかがカギとなるとともに、このシェアサイクルをベースとした他サービス(データの分析・提供など)をどこまでできるかも重要となるかと思います。 

 

今後もこのビジネスについては注目していきたいと思います。 

モバイク、おもしろそうだな...。

自転車への回帰

またまた少し前になりますが、各メディアで中国における自転車シェアビジネスについて書かれていました。2年ほど前から始まったこのビジネスの様々な問題が出てきたようです。

 

30年ほど前までの中国のイメージといえば、自転車に乗ったたくさんの人たちが北京の街を走っている映像、というのが定番でした。あの強烈なインパクトある映像はおそらく30歳以上の人であればすぐに思い出すことができるはずです。

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しかし経済の発展に伴い、自動車の普及が進んだことによって今ではその光景を見ることはできません。私が初めて中国に行った2004年でもギリギリその名残が見えた程度でしょうか。

 

一周まわって、という言い方になるでしょうか、今都市部では自転車に乗ることに実際的なメリットを見出すことができるようになったようです。

どこの国でも起こっている問題ですが、自動車の普及が進むと主に大気汚染と交通渋滞という2つの問題を引き起こします。その解決策としては公共交通機関の充実ということになるのですが、大都市の数があまりに多い中国において、東京と同等の交通機関の整備を進めることは困難です。

多くの国では自転車に回帰することでこの問題と向き合っています。

 

そこにスマートフォンなどのテクノロジーの発達によるシェアビジネスの普及がレンタサイクルにも波及し、中国で一気にブレイクしている、という状況です。

従来、現在でも欧米における同様のビジネスにおいては、シェア自転車はレンタサイクル会社が定めた所定のドックに置かれており、そこから借りてドックに返すというものでした。つまり自転車の借りる場所、返す場所に制限があったのです。

しかしながら中国におけるこのビジネスの特徴はどこでも借りられどこでも返すことができる、という点です。

詳細は各リンク先の記事に譲りますが、要はスマートフォンQRコード読み取り機能を活用して自転車に貼られているQRコードの読み取りが自転車ロック解除の機能を果たすそうです。ユーザーは自転車についているGPS発信器で近くの自転車を検索し、その自転車のIDを取得するとロックを解除されるためのコードが送られてくる、という仕組みとなっています。QRコードとそのコードの組み合わせで機能しているようです。

 

このビジネスに幾つもの企業が参入し、これらの企業に対して中国だけで10億ドル以上の投資が行われ、次のユニコーンがここから生まれる可能性もあるといわれています。

 

しかしながら、この便利さを逆手にとって日本ではあまり起こらないだろうと思われる問題も多く発生しています。

1つはロック解除後に自転車のQRコードを撮影してQRコードを削り取ってしまい、誰にも読めなくしてしまい自分専用の自転車としてしまう点です。これにより自転車を購入することなく自身の自転車を持つことができます(もちろん、鍵をかけるたびに課金はされますが)。

2つ目は自転車を返却する際に適当な放置の仕方をするため、歩道や車道をふさいでしまっていることです。他人のことをあまり考えない中国人らしいといえばらしいです。

 

このような問題が噴出した結果、北京ではこのビジネスの規制を検討し始めました。また

 

日本では主に自治体がこのようなサービスを実施していますが、特に東京においては地下鉄、バス網が充実しすぎているため、健康のためや自転車に乗ることを目的とする以外にはあまり需要がないのでは、と思っていました。

しかしよく考えると2020年のオリンピックに向けては、海外からの訪日客向け需要がかなり見込めるのではないかと思います。

その需要を取り込むためには、自治体が主導するよりも民間主導で実施できるようにするべきかと思います。自治体が主導の場合には、自治体の境を超えて自転車の乗り降りをすることが難しいのではないかと考えます。GPSがあれば比較的簡単にできそうな気もしますが、それを理解する人がどれだけいるか...。

 

 (参考)

www.recordchina.co.jp

jp.wsj.com

www.bloomberg.co.jp

www.chinadaily.com.cn

「人治の担い手」(日経)について

少し前となりますが、3月最終週に日本経済新聞にて「人治の担い手」という特集が組まれていました。「次世代指導者」、「側近」、「企業家」、「華僑」という4つの切り口で5年に1度の党大会が開かれる今年以降の中国政治の行方を占っています。非常に面白い特集でしたが、私はその中でも「企業家」の回に注目しました。 

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要約すると、シャープを買収し東芝半導体事業の買収にも名乗りを上げた鴻海の郭董事長と中国政府の関係、温家宝前首相と中国の不動産大手万達の社長との関係を挙げて、権力の中枢との関係が中国でのビジネスを成功させるためには不可欠である、という文脈です。 

しかしながら、中国に限らずビジネスのルールを定める権力といかに良い関係を築き、自分のビジネスに対して有利な環境を作り上げるよう働きかけるか、というのは何も中国に限った話ではないでしょうか。 

確かに、中国は「法治国家」を標榜しておきながら、権力を司法が分離しておらずあくまで全ては共産党指導の下に行われているため、ビジネス上のルールに抵触しているかしていないかは共産党のさじ加減1つで決まる、という点が明確になっているという点において、民主主義国家とは明らかに異なります。 

ですが、民主主義国家においてもそれが(あまり)表沙汰にならないだけでほぼ公然と同じことが行われております。ロビー活動という言葉があるくらいです。 

ロビー活動で自分たちに有利な環境を築きつつ、法で定められたルールの中でいかに勝負するか、が問われるのは当然でしょう。そのため、程度の違いはあれどこの点だけが人治の国・中国の特殊な事情であるとは言えないかと思います。 

 

中国がもう1つ特殊なビジネス環境である点は、誰もが法の網目をかいくぐって平気でグレーな部分を攻めていくところと、そのスピード感が圧倒的である、というところだと思っています。 

もう古い話になりますが、中国で現在配車サービスのスタンダードとなった「滴滴出行」(昨年、Uberの中国事業も買収して実質中国における配車ビジネスを制圧)は、「自家用車を使用して商売をする」ことに関してはグレーに近い黒で、実際に当局からの指摘も受けていました。 

ところが全くの黒でないところと、そのあまりの便利故、結局法側を変えることになったのです。 

 

既存の法律に縛られずに当然のようにその間隙を縫って攻めていくことをよしとする気質と、需要がありそれが(共産党の)理と利にかなうのであれば既存がどうであろうと変えることができる点を覚えておかないと、中国でビジネスをする上ではそのスピード感故機会を逸することは多々発生してしまいます。 

人治がビジネスにもたらすことは、こういう面もあるということを理解しておくべきです。