少し前となりますが、3月最終週に日本経済新聞にて「人治の担い手」という特集が組まれていました。「次世代指導者」、「側近」、「企業家」、「華僑」という4つの切り口で5年に1度の党大会が開かれる今年以降の中国政治の行方を占っています。非常に面白い特集でしたが、私はその中でも「企業家」の回に注目しました。
要約すると、シャープを買収し東芝の半導体事業の買収にも名乗りを上げた鴻海の郭董事長と中国政府の関係、温家宝前首相と中国の不動産大手万達の社長との関係を挙げて、権力の中枢との関係が中国でのビジネスを成功させるためには不可欠である、という文脈です。
しかしながら、中国に限らずビジネスのルールを定める権力といかに良い関係を築き、自分のビジネスに対して有利な環境を作り上げるよう働きかけるか、というのは何も中国に限った話ではないでしょうか。
確かに、中国は「法治国家」を標榜しておきながら、権力を司法が分離しておらずあくまで全ては共産党指導の下に行われているため、ビジネス上のルールに抵触しているかしていないかは共産党のさじ加減1つで決まる、という点が明確になっているという点において、民主主義国家とは明らかに異なります。
ですが、民主主義国家においてもそれが(あまり)表沙汰にならないだけでほぼ公然と同じことが行われております。ロビー活動という言葉があるくらいです。
ロビー活動で自分たちに有利な環境を築きつつ、法で定められたルールの中でいかに勝負するか、が問われるのは当然でしょう。そのため、程度の違いはあれどこの点だけが人治の国・中国の特殊な事情であるとは言えないかと思います。
中国がもう1つ特殊なビジネス環境である点は、誰もが法の網目をかいくぐって平気でグレーな部分を攻めていくところと、そのスピード感が圧倒的である、というところだと思っています。
もう古い話になりますが、中国で現在配車サービスのスタンダードとなった「滴滴出行」(昨年、Uberの中国事業も買収して実質中国における配車ビジネスを制圧)は、「自家用車を使用して商売をする」ことに関してはグレーに近い黒で、実際に当局からの指摘も受けていました。
ところが全くの黒でないところと、そのあまりの便利故、結局法側を変えることになったのです。
既存の法律に縛られずに当然のようにその間隙を縫って攻めていくことをよしとする気質と、需要がありそれが(共産党の)理と利にかなうのであれば既存がどうであろうと変えることができる点を覚えておかないと、中国でビジネスをする上ではそのスピード感故機会を逸することは多々発生してしまいます。
人治がビジネスにもたらすことは、こういう面もあるということを理解しておくべきです。